エンジンブレーキをなぜ使わないの?(1)
エンジンブレーキ使用の大切さ
【今回の記事は北海道のみならず全国的に共通の話です。ただし北海道の峠は直線かつ長距離が多いのでぜひ読んで頂きたいです。】
関連記事: エンジンブレーキをなぜ使わないの?(2)
エンジンブレーキの事は教習所で散々習ったと思います。
教習所で習ったことを私も含めて全て覚えている人はまずいませんが、エンジンブレーキについては命や財産に関わることなので適切に使用をしなければなりません。
でも北海道で暮らしても東京時代にしても、本州の遠くの県にドライブに出かけても「長い下り坂でもエンジンブレーキを使っていない車が多すぎる」といつも感じています。
こう書くと「実際にはトップギアのエンジンブレーキも併用している」という人がいるかもしれませんが、トップギアは長い下り坂では減速効果が期待出来ないのでエンジンブレーキを使っているとは言えないと思います。
ビックリするくらい長い、または急勾配の坂でもずーっとブレーキを踏みっぱなしの車が多いです。
AT車全盛時代だからでしょうか? でもMT車が多かった時代もブレーキ踏みっぱなしという車は結構いましたね。
長い下り坂でブレーキを踏みっぱなしだとどうなるか教習所での授業覚えていますか?
復習してみましょう。
1.下り坂では重力でスピードが自然に上がるのでブレーキを踏む。長い坂だと「踏みっぱなし」になる。
2.ブレーキが過熱する。
3.さらに踏みっぱなしにするとペダルを踏んでいる量に対してのブレーキの効きがどんどん悪くなってくる。
4.効きが悪くなるのでさらに強く、そして長くブレーキを踏む。
5.全くブレーキが効かない状態になり大事故となる。
こんなこと当たり前ですが、実際「踏みっぱなし」の人が多すぎです。
上記の「3.」はフェード現象と言って過熱により効きが悪くなる現象ですね。
なぜフェード現象が起きるかご存知ですか?
加熱するから?もちろんそうですが、ブレーキパッドの材質によっては原理的にフェードが起きないものもありますが、殆どすべての車ではフェード現象が起きます。
起きる原因はブレーキパッドに含まれるレジンという樹脂が原因です。
数種類(以上)の金属粉を固めてパッドの形にするために樹脂を混ぜて接着剤代わりにしているのです。
もちろん接着剤代わりの他に低温(低速度)域でもブレーキを効きやすくする、ブレーキからの異音を減少させるなどの効果もあります。
ブレーキを踏みっぱなしにして加熱すると、このレジンが溶け始めてガスが発生します。
レジンは表面にドロドロに溶けだすことはありませんが、この発生したガスがブレーキパッドとブレーキディスク(またはドラム)の間に入り込んでガスの圧力でブレーキパッドを押し戻す現象が発生するのです。だからブレーキが効きにくくなります。
「5.」はべーパーロック現象ですね。
これはフェード現象に続いてどんどんブレーキパッドの温度が上がると、その熱がブレーキパイプの中のブレーキフルード(オイル)に伝わり、ブレーキフルードが沸騰してしまい、パイプの中に気泡が出来てしまう事でブレーキが全く効かなくなる現象です。
これが起きるといくらペダルを踏んでもスカスカになってしまうそうです。
なお過熱状態ではフルードの中に沸騰による細かい気泡が多数発生し、極端に効かなくなることはあってもペダルがスカスカまでにはなりません。
べーパーロック現象で恐ろしいのは、下り坂を下り切ってブレーキフルードが冷えた時だと言われています。
というのも沸騰状態では細かい多数の気泡だったのが、その後冷えると細かい気泡が固まって大きな気泡になることがあるのです。
この大きな気泡というのが曲者で、この状態になると何をやってもブレーキは効きません。
こうなったらお手上げですがシフトダウンとパーキングブレーキの併用、場合によっては路肩の土やガードレールに車をぶつけて停まるしかありません。
注意事項: パーキングブレーキは熱容量が非常に小さいのでかけっぱなしにすると簡単に焼き付いて効かなくなります。またシフトダウンはAT車だとレバーを動かしても実際のギアはシフトダウンしない事があります。AT車はエンジンの回しすぎ(オーバーレブ)を防ぐために油圧やコンピュータが常に回転数を把握してエンジンを回しすぎないように保護しているからです。
フェード現象、べーパーロック現象は非常に恐ろしいものです。ですから「起きた時の対処」ではなくて「起きないように最初からシフトダウンする」ことが大事なのです。
余談: フェード現象の説明で「パッドの種類によっては原理的にフェードが起きないものもある」と書きましたが、非常に特殊なものです。
例として、カーボン系、フルメタル系などの最初からレジンを含んでいないものは800~1000度の高温に数時間以上さらされても全くフェードが起きません。ブレーキが真っ赤になっても効きます。ただしこの熱はブレーキフルードに伝わるのでべーパーロック現象は起きます。
車以外では航空機のディスクブレーキ(大型機だと1本の車軸に4~8枚もディスクがある)や、新幹線のブレーキは非レジンのパッドなので原理的にフェードが起きません。べーパーロック現象は航空機の場合は油圧ブレーキですが長い下り坂はありえませんし、フルブレーキも着陸時の30秒強くらいですのでフルードが沸騰まで加熱されません。新幹線はエアーブレーキなのでべーパーロック現象自体が原理的に起きないのです。
エンジンブレーキの選択と使用
本来ならば言うまでもないことです。MTで5速であれば4速に、ATであればDレンジから1段だけ落とすのが基本です。
一段落として速度が安定して、必要であればさらに一段落とすという事になります。いきなり低いギアにするとミッションやエンジンに過度な負荷をかけて壊したり寿命を短くすることがありますし、車もスリップしたりして危険です。
AT車は先の「注意事項:」に述べましたがレバーを操作してもシフトダウンにならない事がありますので注意が必要です。
いずれにしても下り坂で速度が増し始めてからではなくて、速度が増すかもしれないと思う時にシフトダウンすることが大切です。
シフトダウンの段数が選べない車
最近のAT車の一部にはシフトダウン段数が選べないものがあります。
知っている限りではトヨタのハイブリッド車と一部のガソリン車です。他のメーカもあるかもしれませんが。
これらの車は「B」というポジションがあり、これがエンジンブレーキのモードです。
トヨタのハイブリッド車はDモードでアクセルを戻しても基本的にエンジンブレーキは効きません。
走行エネルギーを発電機で電力に変えてバッテリーに充電する回生ブレーキを使っていますので、Dモードでアクセルを戻しても弱めの回生ブレーキが効くだけです。
つまりエンジンが駆動輪に接続されないのです。でもBモードにするとエンジンが接続されて回生ブレーキとエンジンブレーキが同時に効くようになります。
回生ブレーキは一切摩擦を使わずに電磁力だけで減速しますので、これにエンジンブレーキを併用すれば加熱の心配はありません。
但し回生ブレーキには一つ欠点があります。それは負荷となるバッテリーが満充電になると「回生失効」といって回生電力が行き場を失い回生ブレーキが効かなくなるのです。
でもまだBモードのエンジンブレーキとフットブレーキは普通に生きていますし、トヨタのシステム図を見るとどうやらバッテリーが満充電になると発電機(モータ?)をモーターとして回してミッション経由でエンジンを回してエンジンブレーキを強くかける仕組みのようです。
これは正式にトヨタに問い合わせたものではありません。でもブレーキのシステム図を見るとどう見ても回生失効対策と思われるようになっています。
エンジン車のBモードの正確な動作は未確認ですが恐らく速度に応じてギアが自動選択されるようです。
最近の車は実は下り坂でもフェード現象が起きにくくなっています。
理由ですが、坂に応じて自動的にギアの選択がされるミッションがあるのです。
角度計で坂を検出しているわけではないようです。どうも説明を見ると「アクセルを戻しても一定以上の加速が続くと下り坂」と判断しているようで、その状態でシフトダウンをしているみたいなのです。
この方法だと長い下り坂では自然とシフトダウンすることになります。
もちろん選択されたギアが常に最適かどうかは分かりませんが、多少なりともブレーキパッドへの負担は減るはずです。
上手いこと考えたな、と感心しましたが多分メーカーの技術者も「多くの人は長い下り坂でもシフトダウンしない」という事から開発したのでは?と思います。
でもこれに頼らずに自分でシフトダウンするのが基本です。
以上長くなってしまいましたが、適切なギアの選択を常に心がけるようにしましょう。
本当に命に直結ですからね。
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