エンジンブレーキをなぜ使わないの?(2)
平坦路でもエンジンブレーキ(シフトダウン)は使うべき
関連記事: エンジンブレーキをなぜ使わないの?(1)
前回の記事でもエンジンブレーキの事を書かせて頂きましたが、今回の記事は前回の補足であると共に「平坦路でもエンジンブレーキ」を積極的に使いましょうという内容です。
特に凍結路面、雨で濡れた路面の場合は平坦路でも使ってほしいと思います。
ここでいうエンジンブレーキはシフトダウン操作を言っています。
なぜアクセル/ブレーキ操作でスリップするのか?
アクセルを強めに踏んだり、ブレーキもそーっと踏んだつもりなのに凍結/濡れた路面では簡単にスリップしますね。
何故だか考えたことおありですか?
タイヤには「エンジンからの駆動力」と「ブレーキ力」の2つが加わります。(正確に言うと車の車重も入りますが今回は無視です。)
そしてタイヤと路面の間には摩擦力があって、これがあるからこそ車は走るし停止出来るのです。
でも駆動力、ブレーキ力が必要以上に大きいとどうなるでしょうか?
以下の図を見てください。(クリックで拡大します。)
図からわかることは、
・加速時には駆動力が摩擦力を大きく上回るとタイヤは空転する。
・制動時に制動力が摩擦力を大きく上回るとタイヤはロックする。
ということですね。
加速時はアクセルをジワーっと踏むか、或いはクリープ(ATの時)で発進すれば凍結路面でも発進はそれほど難しくはありません。
(でも凍結の坂道発進の場合は4WDでないとかなり厳しくなりますし、平坦路でもFRだと車体後部を大きく振ることがあります。)
問題は制動時です。どんな路面でも制動力が地面との摩擦力を上回らないようにすれば凍結路面でも基本的にはスリップしたりロックしたりはしません。
でもこれが非常に難しいのです。
タイヤがスリップやロックしないようにブレーキをかけるには
雨で濡れている程度であればブレーキペダルを踏む力の加減で問題ないブレーキをかけることが出来ると思います。
でもツルツルの凍結路面では足の指でペダルを触る程度のブレーキであっても簡単にタイヤはスリップやロックをしてしまいます。
結果、制動距離が延びるだけでなく車体が大きく振られたりスピンを起こすこともあり得ます。大変危険な状況です。
これは下り坂だけでなく平坦路でも同じことです。
なぜ凍結路面ではこれほどブレーキの加減が難しいのでしょうか?
それはタイヤと地面との摩擦力があまりにも小さいからです。
積雪や圧雪路面の摩擦係数は乾燥路面の1/3、ツルツルの凍結路面(ブラックアイスバーンも含む)では1/6以下になります。
これほど摩擦係数が下がるとブレーキ力を踏む力だけでコントロールするのは極めて困難になります。
「俺は大丈夫だぜ!」という人もいるでしょうが(ブレーキに関係なく車の運転全般にこういう人多いですね。)、昨日大丈夫だった路面が今日、そして1時間後でも大丈夫ですか?
路面状況は刻々と変わっていきます。ましてや運転席からは路面の凍結具合なんてわかりません。
ツルツルの凍結路面で安全にブレーキをかけるには以下の2つしかないと思ってください。
●アクセルを戻し、ブレーキペダルには触れずに惰性で速度を落とす。
●適切なシフトダウンをする。
前者は制動距離がかなり伸びます。でも凍結路面で必要な制動距離は乾燥路面に対して10倍以上必要と言われています。
これが一番安全な方法です。
後者はMT/AT問わずまず一段だけギアを落とすということです。最近の一部の車のように「B」モードだけでギアの段数を選べない場合はためらわずにBモードにします。
タイヤがブレーキ操作に起因するスリップやロックはせずに安全に減速できます。
凍結路でシフトダウンの1段飛ばしとかはやってはいけません。かえってスリップして危険です。
シフトダウンは長い下り坂のため、と思っている人が多いですが平坦路でも積極的に使うべきです。
夏の乾燥路面でも使ってよいと思います。
なぜ適切なシフトダウンのブレーキは安全なのか?
適切なシフトダウンとは先に述べたように、「1段飛ばしなどの急激なシフトダウン」をしないことです。
利きが弱くても1段だけのシフトダウンにします。
ではなぜ足でペダルを踏むブレーキよりもシフトダウンのエンジンブレーキの方が凍結路でも安全なのでしょうか?
それは1段だけのシフトダウンであれば「ブレーキ力がタイヤと地面の摩擦力を大きく上回ることが極めて少ないから」なのです。
理由ですが、
■フットブレーキはタイヤをブレーキパッドという外力で無理やり回転を抑えるので加減が難しく、簡単に制動力が地面との摩擦力を上回ってしまうのでスリップやロックをしやすい。
■シフトダウン、つまりエンジンブレーキであればタイヤを外力で無理やり止めようとするのではなくて、タイヤ自らが回転を落とすので地面との摩擦力よりも制動力が上回る可能性が低くなる。
ということです。
つまりエンジンブレーキによってタイヤが自らの回転数を落とすから安全なのです。
フットブレーキをどんなに繊細に操作しても凍結路面では直ぐにスリップやロックをしてしまいます。
なお一番大切なことは凍結路面ではとにかく車間距離、制動距離を十分すぎるほど長くとるということを忘れないでください。
もちろん乾燥路面でも適切な車間距離は必要ですけどね。
エンジンブレーキについての勘違い
補足的情報です。
エンジンブレーキについて勘違いしている人が私のまわりにいましたのでそれらについて書いておきますので参考にしてください。
▼AT車は長い下り坂でもシフトダウンをしてはいけない。
→話を聞くと、「AT車は常に最適なギアとエンジン回転数で動いているので下り坂でシフトダウンをすると回転数がレッドゾーンに入ってしまいエンジンを痛めたり最悪壊したりする。」とその人は言っていました。
これはあり得ない話です。AT車のギア選択はミッション内の油圧または回転数センサーによって決められていますのでシフトダウンによってレッドゾーンに入りそうな場合はシフトダウンしてくれません。ミッションを守るためです。(どんなに安い車でも同じです)
MT車であればあり得る話ですが、MTの場合はまずタコメーターが付いていますのでフットブレーキと併用して回転数を確認しながらシフトダウンすればレッドゾーンに入ることを防ぐことが出来ます。
▼AT車はMモードの位置によって自在にギアを変えることも出来る。
→「Mモード」というのはD1、D2とか書いてある1速、2速にするモード、またはレバーの+、-位置でギアを選択できるモードの事です。
でもこれらの操作をしてシフトダウンをしようとしてもシフトダウン後のエンジン回転数がレッドゾーンに入ると予想される場合はレバーを操作しても実際のギアは低いギアに入らないようになっています。先に述べたようにエンジン保護のためです。
またシフトアップのモードに入れても高い速度用のギアに入らない事もあります。
理由はシフトアップするとエンジン回転数が下がるので、その時の速度によってはアイドリング付近(或いは以下)まで回転数が下がってしまい極端なトルク不足で加速出来なくなったり、エンストの可能性があるからです。
AT/MTいずれにせよ凍結路でシフトダウンで速度を落とす場合はギア操作も十分に余裕をもって早めに行う必要があるのです。
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