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北海道では車のエンジンをいたわる?

北海道では車のエンジンに注意が必要?

車の暖機運転と慣らし運転、そしてエンジンの回転数云々の議論は大昔から今に至るまでいつも尽きない話題のようです。

関連記事: 冬の北海道では暖機運転が欠かせない?

はっきり言ってこれらのことを気にして乗っている人は「よほどの車好き」、「特定の車種でメーカー指定事項がある場合」、「古くて部品も入手が難しくなってきたプレミアムカー」などの場合に限られるのではないでしょうか?

今時これらのことを無視して乗っても車の調子が悪くなったとか聞いたことがありません。
日本車はもちろん外車だって、中古車だって同じです。

でも気にしている人も多いし、びっくりしたのは私はある記事で、

北海道では車のエンジンの扱いに注意が必要

というのを目にしたのです。
内容は以下のようなものでした。


1.冬の北海道では極端に気温が低いので、その日の最初のエンジンスタートはオイルの粘度が下がっていることもあり、またコールドスタートになりがちなので十分な暖機運転をすること。出来ればオイル活性剤(添加剤)を常用すべき。

低温下ではオイルの粘土(粘り)が下がるので温度が上がるまではピストンなどが動く時に抵抗が大きく各部品の負担が大きい。コールドスタートとはオイルがシリンダーなどから完全に落ちてしまって、エンジンスタート時にはオイルの膜がないので金属同士擦れ合ってしまうので焼付けや傷が生じる。だからオイル活性剤を入れればオイルが落ちても活性剤が金属同士の接触を守ってくれるという話し。

2.冬のような低温下はもちろん、夏でも北海道では巡航速度が高いのでエンジンをかけた直後から高回転まで回すとエンジンに余分な負荷が掛かるので走り出しても最初は控えめな回転数にすること。10分以上走って十分にエンジンが温まり各部品がなじんだら回転を上げても良い。
つまり新車購入直後と同じことを日常的にすること(中古車でも同じ)


など我が目を疑う内容でした。
これらを読んで皆さんはどうお思いでしょうか?

車は知識のない人が使うように設計されている

まずお断りしておきますが、私は車や機構関連の技術者、及びその関係者ではありません。
元は技術者ですが電子系であり機構関連は素人です。でも技術者視点で自分とは無関係のジャンルを見ることは出来ると思っています。

さて車に乗る、所有する上で一番気に留めて頂きたいことは、

一般の乗用車は知識のない人が使うように設計されている。

ということです。
これは下駄代わりに使う軽自動車や超高級セダン、数千万円のスーパースポーツカー全て同じです。

免許を取るときには教習所で最低限の車の構造や特性などを学ぶわけですが、決して専門的なものを学ぶわけではありませんよね?

買った車の説明書にも日常点検のことくらいしか書いてありません。

つまりどんな車でも免許を持っていれば誰でも問題なく使えるように設計・製造されているのです。

20年以上前だったでしょうか?
トヨタが新聞広告で面白いことを言っていました。

「私たちは難しいことを考えずに安心して乗れる車を作ります。だって掃除機を使う前に毎回内部を点検する主婦なんていませんよね?」

とかでした。
このフレーズは20年も前で記憶が曖昧なので上記のとおりの言葉ではないと思いますが、ほぼあっていると思います。

つまり当時も今も一般的な車は全て(もちろんトヨタ以外も)上記の思想で作られているのです。

 

確かに一部の車にはクセがあります。
特に海外製の高級スポーツカーなどは(所有も乗ったこともないが)、「○○(車種/メーカー)はブレーキに癖がある」とかの話しです。

しかしどんな車でも性能を引き出して乗りこなすのと、普通に運転することは全く異なることであり、全ての車は「普通に運転する」ことを前提に作られているのです。

これはスーパースポーツカーでも同じです。
多少は運転はクセがあるかもしれないけれど、とりあえず普通に公道を走ることが出来る。但しあなたが性能を最大限引き出したいのであればそれなりのテクを磨いて、安全な場所で運転してね、ということです。

でも多くの自動車評論家は勘違いしているような記事を書くし、自動車用品店も「より高級なオイルを!添加剤を!」とか薦めますね。
これは彼らが本当にわかっているかどうかではなくて、仕事のため、会社から命令されているからだけの話しです。

例えばエンジンオイルの交換時期をメーカーが5000kmごとにとか指定しているのに、なぜ前述の方々は「2000km程度で交換したほうがエンジンは長持ち」なんて言えるんでしょうか?

単なるカネの無駄だと思います。


もちろん自動車会社が指定するシビアコンディションだったり、評論家たちが「その車では5000km交換と2000km交換ではこれだけエンジンの寿命に差がある」というデーターを出しているのであれば話しは別ですが、そんなデータあるわけ無いんです。

もしこのようなデータを用意するのであれば2000km交換を推奨する人(評論家?用品店?オイルメーカー?)が例えば5~10年とかの長きに渡り全く同じ車を2台用意して、同じ使われ方で上記の距離でオイル交換をしてエンジン内部の汚れや出力などを計測したデータを提出する必要があるのです。

または加速度試験と言って実際に10年の期間をかけなくても、温度やその他の条件を厳しくして例えば2年のテストでも10年使ったのと同じデータが得られるようなテストをするなど特殊な作業が必要となります。

いずれにせよ莫大な試験費用が掛かります。


自動車メーカーの設計技術者、製造現場担当者はその会社が創立されてからの長きに渡るノウハウの蓄積を持って車を世に送り出し、オイルや部品交換時期を決めているのです。

だから数年~10数年前に評論家になった、用品店を開店したとかとは歴史がまるで違います。
私は車の扱いは自動車メーカ指定どおりで良いし、ましてや北海道だから特別なんてことはあり得ないと思っています。

巡航速度が高いなんて馬鹿げた話しです。
確かに飛ばす車は多いですが(よいことではありません。)、だからと言って本州と比べてエンジンや車体の傷みが激しいなんてありません。
単純に年間走行距離が増えるだけでガソリン代と保険代が高くなるくらいの話しです。(私の経験)



今の車はどうなっている?

どうなっているって大昔の車と比べての話しですが(外車も含め)、まずは先に述べたように産業用を除く全ての車が

免許さえあれば誰でも高度な知識や技能は不要で乗ることが出来る。

エンジンなどは全てコンピュータで管理されているので例えMT車であってもエンジンの様々な制御は人間が介入出来ず最適化されている。

昔から言われているが10年10万km以上乗れて当たり前で(達しない使われ方や当たり外れは多少あり)、タクシーなどは僅か5年で40~50万kmもノントラブルで走ることも多い。聞くところによると50万kmでもまだまだ余裕だそうだが、シートなど車内設備がヘタって来るので接客用車両としてはそんなに長くは使えないらしい。

とりあえず日本国内で言えば沖縄で買った車を北海道に持ち込んでも冬でも季節に起因するトラブルはまず起きない。
私の車も東京で買ったものを北海道で8年も使っているが冬にトラブルが起きたことは皆無でバッテリーも交換していない。寒冷地仕様でないのでせいぜい暖房がやや弱いくらい。
ディーラーの話しでも「シベリヤや北極で使わなければ何処に持って行っても問題は無いはず」とのこと。

事実、日本の中古車(しかも車歴の長いもの)がロシアの酷寒地にたくさん輸出されて現地でもノントラブルで活躍しているのです。
北海道にはこれら専門の輸出業者が多くあります。(もちろん正規かつ合法のビジネスで、です。)

だから「北海道では車(エンジン)の扱いに注意」なんてメカニズムに関係することなどあり得ない。

などは常識的に考えて当然のことばかりです。

車のエンジンだけは特殊なのか?

暖気や慣らし、回転数の問題などの記事に接するとまるで「車のエンジンは他の用途のエンジンとは異なり極めてデリケートで特殊」という印象を受けます。

では他の用途のエンジンはどんなものがあってどんな特徴があるでしょうか?

なお車のエンジンの出力は最大出力表示(瞬間的(数分以内)に出せる出力)ですが、産業用エンジンは航空機を除きほぼ全て連続定格出力表示になっています。

(航空機が最大出力を発揮する必要があるのは離陸時のごく短い時間だけで、あとの上昇や巡航はずっと低い出力で構わないからです。とはいっても巡航時に要する出力も大変な大きさではありますが)

連続定格出力というのは「温度/負荷など一定の条件の下で燃料さえ供給されていれば時間に関係なくずっとその出力を出し続けられること」を意味します。

例えばある車のエンジンの最大出力が100ps/6000rpmだったとすると、6000回転回した時に100psの出力が得られるが6000回転をずっと保つと壊れなくても熱ダレやその他の要因でだんだん出力が落ちてきます。

どの程度の時間でどれほど出力が落ちるかは各メーカーは一切公表していませんし、車の速度は常に刻々と変わるし常にアクセルベタ踏みなんてレースでもあり得ないので瞬間最大出力で良いのです。この方が安く軽く作ることも出来ます。

対して産業用エンジンの連続定格出力だと100ps/6000rpmが燃料の供給が続けられて、想定される以上の負荷が掛かったり環境の温度上昇がなければず~っと100psを出し続けることが出来るのです。
産業用はこれが必要なのです。

以下に車用以外の主なエンジンの特徴を書いてみます。


発電用
24時間連続運転、場合によってはこのまま365日ノンストップ。でも燃料とオイル量の確認以外はほぼメンテナンスフリー。
それどころか遠隔または自動運転で完全無人下で使われることが多い。

機関車/ディーゼルカー用
高出力だけでなく、エンジンから見た負荷に掛かる力が非常に大きい。
常に高負荷状態なので非常に頑丈にかつメンテナンスフリーに作られており、発電用などのエンジンを改良して使う場合でも寿命を延ばすためにわざわざ本来の出力から下げて使ったりしている。
出力を10%下げると寿命が30%伸びるとも言われている。

↓特急ディーゼルカー(キハ183)用水平対向12気筒/30リッター/440psエンジン
  本来の連続定格出力は500ps以上ですが寿命を延ばすために440psに落としています。
(クリックで拡大)

画像引用元:Wikipedia

船舶用
数十馬力の船外機(ちょっとしたボートなど)~出力10万馬力以上の超大型タンカーまで様々ですが、特に客船やタンカーなどは24時間365日連続運転が前提に作られています。

↓2枚とも世界最高出力のコンテナ貨物船用11万馬力エンジン
(クリックで拡大します。)

↓クランクシャフト
小人さんが作業しているのではありません。

画像引用元: すんばらしぃ何か。様
http://esp.jugem.jp/

航空機用
数人乗り機のレシプロエンジンから数百人乗り機の大型ジェットエンジンまでありますが、航空用エンジンは取り扱いがかなりシビアのようです。
しかし「極めて特殊で高度な訓練を受けた者のみが操縦/整備するのでさほど問題にはならない」、「基本は通常のメンテでは絶対に近いほどノントラブルという超高信頼性設計」、「特に旅客機のエンジンは構造自体及び制御システムなど徹底した安全対策がされている」など他にはない特徴があります。

エンジンや機体、そして操縦や整備をする人たちに極めて高度なレベルが要求されるから安全に運行されているということなのです。

ちなみにあらゆる乗り物の中で一番事故率が低く安全なのは航空機であり、ましてや旅客機のパイロット(副操縦士も)は半年ごとの操縦の技能審査(最近は1年になったらしい)と1年ごとの路線資格審査(例えば羽田~新千歳間を乗務してよいという資格)に合格しなければ乗務出来ないという極限の厳しさです。さらに半年~1年間隔の航空身体検査非常時の訓練などもあります。

しかもかなり厳しい試験で自動車免許のように話し聞いて、ビデオ見て終わりではありません。
私の先輩のお父様がB747(ジャンボ)の国内線パイロットでしたが、半年ごとの試験の3週間前になると急に無口になり部屋に篭って出て来なくなると先輩は言っていました。

言い換えると彼らの免許の有効期間はたった半年~1年間と等価で、これが乗り続ける限り定年まで続くのです。






これら↑に比べると如何に車のエンジンはお手軽用途だということが判ります。
(スーパースポーツカーでも)

産業用エンジンは作りそのものが根本的に異なり(長寿命/頑丈など)、メンテナンスも部品が壊れなくても一定周期で交換してしまうなど使われ方が自動車用途とは全く違います。

対して自動車用エンジンは車検と1年に一度の定期点検と、基本的には油脂類の交換だけで10年/10万km以上使える設計になっています。
自動車用エンジンは連続で最大出力を出すことは考えられておらず、またエンジンから見た負荷の大きさも大したものではないので(車体も非常に軽いなど)シビアなメンテナンスなんて不要なんです。

唯一例外の自動車エンジンを言えばレース用のエンジンくらいではないでしょうか?

本記事の冒頭に書いたコールドスタートの問題ですが、完全にオイルが落ちてしまえば確かに微小な傷は付くかもしれません。
でもそれが起因でトラブルが起きたり寿命が短くなったなんてないのです。

「寿命が短くなるかもしれない」という言葉は評論家は好きかもしれませんが、しょせん「かも?」でありオイル交換時期と同じように比較データを元に言っているわけではありません。

メーカーが説明書などで「コールドスタートにならないように頻繁にエンジンをかけましょう」とか「オイル添加剤を必ず使ってください」なんて書いたのを見たことがありますか?

一部の大型/超大型エンジンでは確かにコールドスタートが問題になることもあるようです。
でもそのようなエンジンではスターターを作動させる前に専用のオイルポンプで一旦オイルをエンジン内に一巡させてからスターターを作動させるのです。
車にはこんな大仕掛けはありません。理由は不要だからです。

 

以上より車のエンジンは乗る者の手を煩わさないということがお分かりになると思います。

一部のスポーツカーでは性能を新車同然に保つためにメーカーの指定でオイル交換や定期メンテナンスが一般車よりも短く設定されていたり特殊な要求をしているものもあります。

しかしメーカーの指示に従っていれば良いということに変わりはありません。

車のメンテナンスに無駄なお金をかける必要はないのです。

ましてや「北海道では」なんて馬鹿げたことはないので、北海道で気をつけることは「速度を出しすぎない(制限速度を守る)」、「交通ルール/マナーを守る」、「冬道ではゆっくり慎重に」くらいです。

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